10回目のキスの仕方

聞いてほしい、聞かせてほしい

* * *

 目が覚めると、コーヒーの香りがした。

「あ、美海ちゃんおはよう。」
「…おはよう…ございま…わ、私!す、すみません!すっかり寝ちゃって…。」
「あーいいのよそれは全然。むしろあいつがごめんね。なんか言いたい放題言っちゃって。」
「い、いえっ!」
「頭痛とか大丈夫?二日酔いとか気になってたんだけど…。」
「それは大丈夫…です、はい…すみません。ご迷惑をお掛けして…。」
「ううん。寝顔可愛くて、私もときめいちゃったし。」
「そ、そんなっ!」

 自分は一体どんな顔で眠っていたのだろう。想像すると恥ずかしくなった。

「喉乾いたでしょ?何飲む?コーヒーならすぐ出るけど。」
「コーヒー…いただきます。」
「ミルクとお砂糖は?」
「…どちらもいただいてもいいですか。」
「もちろん。どうぞ。」

 お洒落なコーヒーカップに注がれたコーヒーにミルクと砂糖を足してスプーンでかき混ぜる。至れり尽くせりすぎて、申し訳なさで縮んでしまいそうだ。

「…結局ねぇ、色々考えたんだけど。」
「は、はいっ…!」

 美海は正座した。

「あーあーそんなつもりじゃなくて。そんなかしこまって話を聞いてってことじゃないのよ。ただね、昨日あいつと話してて色々考えちゃって。」
「大倉さんと…ですか?」

 二人を見ていると、とても温かい気持ちになったのをよく覚えている。福島もなんだかんだ言って大倉を大事にしていることは明白であったし、大倉の福島を見つめる目は優しかった。二人の馴れ初めにも素直に興味が出てきたが、それを聞くのはきっと今じゃない。

「なんか妙にあいつ、いいこと言ってたから、なんか考えちゃった。」
「…そう、ですか…。」

 自分も考えていないわけではない。むしろ、あの日から毎日、考えている。傷つけないように、どう言えばよかったのか。あんな顔をさせたかったわけじゃないのに、と。
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