レオニスの泪
「僕はこれでも医者だから。あれから祈さんのこと、ずっと心配してたんだよ。だけど、患者さん自身が治そうと思わなければ、こっちから働きかけることは難しい…と、いうより、不可能なんだ。」



足元には、スクールゾーンと書かれた道路。

去年一方通行にされてしまったせいか、以前より車通りはぐっと減った。

当たり前かもしれないが、今はゼロだ。



「医者の出来ることなんて、限られてる。ごく僅かだ。結局は本人の生きようとする力に賭けるしかない。」





相槌は打たなかった。

打てなかった。


自分を戒めるように話す、神成の声が余りに静かで。

私が何か言ったら、口を閉ざしてしまうんじゃないか、という恐れが過ったからだ。


「前にも言ったと思うけど…心は命に直結している。僕に不信感があるなら、主治医を代えて貰えばいい。大学病院が嫌なら、僕の知り合いに頼んでも良いよ。どんな方法でも良いから、治療を再開して欲しいんだ。」




ひゅるり。



生温い風の音が、 やけにうるさく耳に届いた。

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