レオニスの泪
「いえ…あの、ちょっと待っててもらえますか。」
私は答えないまま、アパートの前で、神成にそう言うと、返事も待たずに小走りに駆けた。
そして、一段抜かしで階段を上り、家の鍵を開ける。
「…はぁ~」
玄関に入り、点けておいた白熱灯の光にほっとして、ドアに背を預けた。
ー何を思った、自分。
部屋は静かで、慧がよく眠ってくれていることを教えてくれている。
よって、自分に真正面から問いかけることが出来た。
ー神成との繋がりがなくなると考えて、自分はどう感じたの?
分析すればする程、自分自身に嫌気が差してくる。
「ないないない…」
必死に、生まれた感情の源を否定しながら、靴を脱いで、居間のテーブルの上に置きっ放しになっていた紙袋を掴んで、また靴を履いた。
「平気。まだ引き返せる。気付かないことにしておけば。」
念仏の如く、ぶつぶつ呟いて、軽く深呼吸し、再び外に出る。