レオニスの泪
踊り場まで行って、下を見ると、神成が空を見上げていた。
つられて、私も空を見てみるけれど、特に何も見えない。
建物の光が強すぎるからだ。
「お待たせしました。」
階段を下りきって、神成の背中に小さく声を掛ける。
「あの…これ…つまらないものですけど、、先日お世話になった御礼です。」
振り返ったタイミングで一気に言って手にしていたものを差し出した。
「え?」
半ば押し付ける風になった為に、神成はポケットから慌てて手を抜いて、紙袋を受け取った。
ー指輪、してない。
此の期に及んでも、そんな所に目が行ってしまう自分が情けない。
「いつ渡そうか迷ってて…良かったです。もしかしたら渡せないんじゃないかと思ってたので。」
ふわり、漂う珈琲の香りが、お互いの鼻をくすぐった。
「そんなの、良かったのに。…律儀だね…。」
ちょっと困ったように、頭を掻いて、神成は申し訳なさそうに呟く。
「これで、貸し借りは無しにして頂けると。」
「貸し借りだなんて…僕はそんなこと思ってないー」
「さっきの話ですが、治療はします。でも、病院は自分で探せますから、ご心配は無用です。色々ありがとうございました。どうぞ、お元気で。」