レオニスの泪
「ほら、笹田さん!俺が言ってた噂の神成先生!」



「ほら!葉山さん!」




ーなぜ、私の名前を呼ぶ。



バックヤードに入りたい私は、背中で笹田の声を受け止め、どうすることが一番最善策なのか、ない頭をフル回転させた。




聞こえなかったふりも、アリかー



いや、ないない。



今、レジに来ている客はこの二人以外居ない。


聞こえなかったなんてことは有り得ない。



「ほらほら、目の保養になるわよ!」



「えっ、いや、ちょっ…」




逡巡している間に、笹田はがしりと私の肩を掴み、無理矢理カウンターに振り向かせた。





「……」




無言で見つめた先には、やはり無言でこちらを見つめる神成がいて。


ふわふわとした髪が、食堂のガラスを通して入ってくる陽の光で、いつもよりも明るく映る。




「森さんの言ってた通りね!実は神成先生こないだ来てくれて、私は一回拝んじゃってるのよー!葉山さんは具合悪そうだったから、ちゃんと見てなかったみたいだけど。」





「あ、そうだったんですか?!てっきり今初めてだと思ってましたよ。ねぇねぇ新成先生、葉山さんどうっすか?子持ちだけどシングルっすよ。」


ー!


そんな情報、神成はとっくに知ってる。

わかってはいるけど、なんだかすごく、、、惨めだ。


止めて欲しい。



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