レオニスの泪
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時刻は22時を過ぎた所。
「えー、もう一回?」
「うん、もう一回」
中々寝付かない慧に、もう何度目になるかわからないお話を、読み聞かせている。
短編が詰まった一冊の中の一つ。
オオカミと男の子のお話で、どうしてか、慧はこの話が好きだった。
しかも、悪知恵を働かせるオオカミと、そうはさせない男の子のやりとりを、臨場感たっぷりに読まないと、満足してくれない。
そのせいで、声が枯れてしまった。
「広い野っ原にー」
一から読み上げながら、昼間の出来事が、頭にチラつく。
結局神成は、笹田と森が盛り上がっている傍らで、私に珈琲を注文し、受け取る際小さくお辞儀をしたのみで、それ以外は一言も発さずに食堂から出て行った。
笹田と森が気付いた時には遅く、神成は既に姿を消した後で。
『あー、しまった。神成先生に、本当に仕事の話があったのに。』
と、森は呟き、笹田に至っては、『逃げられた』とまで言っていた。
私としては、よくない感情が渦巻いていて、うんざりとした気持ちで神成が置いていった小銭をレジに閉まった。
そうして、それを見事にずるずる引きずって、今も悶々としている。