レオニスの泪
あと少しで研修が終わりを迎え、大学の医局で働く事も決まった頃。
「伊織ー見て見て、見えるよ、コル・レオニス。きれーい。」
研修長の圧力をどうやって躱(かわ)し、3月有給を取ろうか思案している時。
「そんな所いたら寒いよ。」
ベランダに出た朱李に言うと、彼女は平気だもん、と楽しそうに空を指差した。
「伊織の星ぃ」
朱李が話すと、吐いた息が白くなって、消えていく。
仕方なく部屋にいた僕も、ベランダに出て、朱李の指す方向へと目を向けた。
「本当に朱李はこの星が好きだね。」
若干の呆れを滲ませれば、朱李はふふと笑う。
「…実はね、伊織の事、サークルの飲み会で会う前から知ってたんだよ。」
「ー初耳だな。」
唐突な告白に、隣を見ると、朱李も悪戯っぽく僕を見上げていた。
「 伊織、意地悪な先生が、女子生徒を共用スペースで怒鳴ってたのを助けた事あったでしょ?」
「ーそんなことあったかな。」
「やっぱり覚えてないか。」
一欠片も記憶に無い僕が首を傾げると、朱李は笑い声を立てる。