レオニスの泪
翌朝。
起きれない朱李を、起こさないようにそっとベッドを抜け出して、僕は普段通りの時間に出て行く。
出際にちら、と振り返ると、朱李は幸せそうに微笑んだまま、よく眠っていて、見ているこっちまでなんだか温かい気持ちにさせられた。
病院に行けば、いつもの苛酷な労働が待っていて、でも家に帰れば、朱李が笑っておかえりを言ってくれる。
そんなのは誰かからしたら平凡過ぎて、単純すぎて、薄っぺらい日常なのかもしれない。
けど、僕にとっては何よりも大事で、温度を持っていた。
「よー、ちょっと酒買ってくるから呑まねぇ?」
帰り際同期に誘われるけど、僕が首を横に振るとチッと舌打ちする。
「新婚かよ。」
それを笑って流せば、小突かれた。
どんなにキツくても、どう考えても睡眠が足りてなくても、僕はもう、朱李なしの生活は考えられなくて、頭の隅にはいつも彼女が居た。
月明かりの下で、珍しく少し早目に帰れた事で機嫌が良くて、家路に就く途中新しくできたパティスリーに寄って、ケーキを二つ買う。
足早に家の下迄来て。
ー電気が点いてない?
腕時計を確認すると、まだ零時前。