レオニスの泪


誰なのか。

直ぐ、分かる。

浅い、呼吸。

それだけで、顔がカ、と瞬時に熱を持つ。


ー走って、追い掛けてきたんだ…


ドアの冷たさを背中に感じながら、一枚隔てた向こうに神成が来ていると思うと、口に当てた掌さえも震えた。


ー開けられる、訳がない。


傍から見れば無反応な私に、控え目なノックが、もう一度。


それから。


「…祈さん…いるの?」


聞こえてきた、ノックと同じくらい控え目な小さい声で、心臓が潰れてしまいそうで、お願いだから、これが夢でありますようにと、今までの中で一番必死に願った。


ーしにそう。


深夜だから、玄関前の話声は、薄い壁のアパートの住人には聞こえてしまう。

でも、お互いの電話番号のやりとりもしていない私達は、これ以外に方法がない。

否、私は知っているけど、神成は私のを知らない。

病院では書かされたけれど、流石にそれを神成が写しているとは考え難い。



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