レオニスの泪
「あの、慧くん、お家で変わった様子はないですか?」
門の所で、突然振られた本題に、笑顔で応じようとしたまま、頬が引き攣る。
「ーどういうことですか?」
「あ、いえ…」
「何かあったんですか?何かしてしまいました?誰かにご迷惑を?」
「違うんです、葉山さん。落ち着いて下さい。」
小さいパニックになって、せっつくように先を促してしまう自分を前に、先生は良く言えば冷静だった。悪く言えば、所詮他人事。
毎日色んな子供の面倒を見ているのだから、少し見ればどういう子なのかはっきり分かってくるだろう。ああ、あのタイプの子か。このタイプの子かと。周囲との兼ね合いもあって、社会という枠組みの中に入れるよう子供達を訓練している。
その内の一人に過ぎないから、こうやって冷静にいられるのだろう。
けれど、親にとったら、この世に二つとない我が子だ。
良くも悪くも、何か言われれば、過剰反応してしまう。特に情緒不安定な今だと尚の事。
ーいけないいけない。
卑屈な考えに気付いてハッとした。
「……家では、別に変わった様子はありませんでしたけど…」
落ち着けと、頭の中で指令を出し、そう言うと。
「そうですか…分かりました。すみませんでした、お忙しい時間に。」
先生は、それ以上何も言わずに、頭を下げた。