レオニスの泪
夕方。
慧を迎えに行く前に、何の服を着ていくかを決めておいた。
息子の前で、父ではない男性に会うのに、服に迷う姿を見せてはいけない気がして、昼過ぎから悩んだ末、マキシ丈の紺のチェックスカートに、黒のハイネックニット。青いカーディガンを羽織る。
普段パーカーと、ジーパンの私からすれば、大健闘。精一杯。
神成はなんとも言ってなかったし、どんなお店に行くかは知らないが、高い店だとしても、ジャケットなんて持っていないし、良い服もない。
――でも友達のお店っていうんだから、少し気軽な感じだよね……
そう言い聞かせて、いや、願って、慧を迎えに行った。
自転車を走らせて、保育所に着くと、時間は17時を過ぎた辺り。
「ママー!」
教室まで上がれば、慧が直ぐに気付いて、奥から飛び出してきた。
「お待たせ。帰ろうか。」
「うん!」
ぎゅっと自分の腰に腕を回している慧にそう言うと、慧は顔をパッと上げて、元気良く頷く。
「おかえりなさい。」
「こんばんは。ありがとうございました。」
担任の先生もやってきて、挨拶するが、特に今日は変わった感じも、何か言いた気な雰囲気もない。
何もかもが順風満帆とは言えないけれど、それでもここ数か月よりかはずっと、ここ数日の方が、安定しているような、心地良さがあった。
いつもいつも持っていた、焦燥感のようなものは、なくなっていた。