レオニスの泪
「ははっ」
噴き出したような音に続き、笑い声が聞こえてきて、一瞬誰からのものか分からなかった。
「え……」
ぱちぱち、瞬きして、慧を見つめると、慧はううん、と首を振る。
それから、指で運転席を差した。
それを私は目で追って、肩を揺らす、神成の背中を見た。
「先生……笑った……」
掠れ声よりも小さい、呟き、いや空気を漏らした程度の声で、隣の慧すらも聞き取れなかっただろうけれど、私はそう言った。
「分かった。ブロッコリーアフロね。」
声が震えているから、笑いがまだ残っている事が伺える。
「そうー。あふろ、やめてください」
「了解。」
慧と神成のやり取りを黙って聞きながら、内心ドキドキしていた。
――初めてだ。
神成と出逢って、彼は笑わなかった訳じゃない。
でもどの笑顔も、慈愛に満ちた表情か、張り付けた表情か、生まれつきの表情のどれかで、声を立てて、楽しそうに肩を揺らして、笑う神成を見るのは、初めてだった。
くだらないことだけど。
慧との会話で、もし、神成が笑ってくれたんだとしたら、それは嬉しかった。
欲を言えば、前からしっかり見たかったけど。
でも、次に彼の笑顔を見る日は、そう遠くないのでは、と思った。