レオニスの泪
「こんばんは、いらっしゃい。あなた、神成さんよ。」
上品そうな女性の声に続いて。
「おぅ、来たか。なんだよ、いつもと違って予約とかしやがって。やっと結婚する気になったか!」
「そんなんじゃないよ。」
男性の親しみの籠った声がした。
神成も明らかにリラックスしている。
「入っていいよ。」
暖簾の外で待つ私達を、神成が暖簾越しに振り返り、手招きするので、
「――行こうか。」
慧にそう言ってから、手を握って、中に入った。
「いらっしゃいませ。」
中に入ると、綺麗な着物姿の女将さんと、作務衣姿のご主人――神成と話をしていた男性――が出迎えてくれた。
「こんばんは。」
「こんばんわぁ」
ど緊張の私と、わくわくしている慧が挨拶を返し、頭を上げると、数歩先で待っている神成が振り返って待っている。
「今お部屋にご案内致しますね。」
よく見ると、女将以外の他の従業員も皆、濃紺の作務衣を着ているようで、ご主人だけが黒だった。
中は割と狭く、障子で仕切られている部屋が数個あるのみ。廊下はやはり玉砂利が埋め込んである。
――靴を脱ぐタイプだ。
タイツ大丈夫だったかなと、やや焦る。
「――あなた?」
女将さんの声に、ハッとして、視線を店内から戻すと、一人だけ、時が止まったかのように、驚いた顔して私を見つめるご主人に気付く。
その隣で女将さんが首を傾げていた。
「あっ……すいません。ぼーっとしてしまって。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね。何かありましたら、気兼ねなく呼んでください。」
「あ、はい、ありがとうございます。」