レオニスの泪
小さく頭を下げながら、前を通り過ぎる時も、ご主人の驚いた顔は隠しきれていなかった。
――なんだろ……知り合い?じゃないよな??
全く覚えがない。
不思議に思いながらも、女将さんに連れられて、神成と一緒に二階に上がれば、直ぐに頭の隅にそんな出来事は追いやられてしまった。
全個室らしいこの店。
案内された部屋も和室と畳の部屋で、雪洞(ぼんぼり)が照明に使われていた。
「こちらへどうぞ。靴はここで脱いでください。お手洗い等行かれる際は、こちらのサンダルをご利用くださいね。」
神成は慣れた所作で最初に和室に上がり、私も慧も後に続く。私はブーツを履いてきてしまったせいで、手間取う。
隣では、とっくに靴を脱いだ筈の慧が、ぼーっと女将さんに見惚れている。
やっと私がブーツを脱ぎ終わり、座敷に腰を下ろした瞬間。
「では、お料理のご説明をさせて戴きます。」
女将さん自ら、説明していただけるようで、私のブーツを脱ぎ終わるタイミングを見計らっていたのだと思うと恥ずかしいやら、申し訳ないやら。