金魚の群れ
もう、何やっているのだろう。

こんなところに来たって、会えることなんて、話ができることなんて絶対にないのに。

それでも、なんとなく離れがたくって、ビルのそばにある公園に足を進めた。

ちょっと落ち着いてから帰ろう。

春になると薄紅色の花を咲かす木で囲まれたその公園は、今は茶色い葉っぱも落ちてしまって、ただ冷たい風にその幹にさらしていた。
滑り台とブランコ、小さな砂場しかない公園。なん箇所かにおかれたベンチがあったはず。

そう思って、ぐるりと見渡せば、スーツ姿の男の人がうなだれていた。
しばらく見ていても、一向に動く気配がない。

この寒い中、コートも羽織らずにただうつむいている。

体調でも悪いのかな。
動けないのだろうか…。
なら、救急車とか呼ぶほうがいいのかな。

そんなことを思いながら、ゆっくりとベンチでうなだれる人に近づいた。

大丈夫だよね。
変な人じゃないよね。

少し遅い時間に、誰もいない公園で動こうとしない人の前に立つと、声をかけた。

「あ、あの」

その呼びかけに顔をあげた人を見て、一瞬心臓が止まりそうになる。
さっきまで思い返していた人の顔がほんの少し下の方にあって、驚いて後ずさってしまった。

「あの、大丈夫ですか?」

バクバクと忙しく動き出した心臓を抑えるように、やっとのことで言おうと思っていたことを口にした。

「気分がすぐれないとか」

「は?」

さっきからの状況を思い出して、そう声をかければ、いらだつような返事が返ってきた。

「ご、ごめんなさい」

「いや、ちがう、いや、違わない?」

とっさに出た謝罪の言葉に、辻堂さんが首をかしげる。
街灯の下で初めての会話。
鼓動は収まりを知らなくて、さっきよりもほほを熱くさせる。

「えっと…。違わないなら何かありましたか?」

どうしてこんな場所でうなだれていたのか聞きたくなってそう問えば、さらに困った顔をして黙り込んでしまった。
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