幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
逃げることなんてできない。
それは今まで散った仲間たちを裏切ることであり、自分の心も裏切ること……。
そうして戦い続ける総司を好きなのが、あたしという生き物なのだから。
「……楓、何かあるなら話してくれ」
「何もないよ。ただ、戦が不安なだけ」
夜中一緒に布団に入り、総司の寝顔を見ていたら涙が出てきた。
そっとその手をとり、自らのお腹に当てる。
総司……あたしね、妊娠してるんだって。
間違いなく、あんたの子だよ。
あの祝言の日から、どれだけの月日が経ったんだろう。
まさかこんな時機に、授かるなんてね。
言ったら喜んでくれたかな。
それとも、真っ青になって、あたしだけ函館から逃がす手はずを整えようと、走り回ってくれたかな……。