怖がりな君と嘘つきな私
「じゃあ、何が怖かったの?」

ナルの髪を手ですきながら尋ねる。
ナルの髪は根元まできれいに脱色されている。
これをするのは、私の仕事で、ナルはいつも「痛い、痛い」と大騒ぎするし、私はいつもそれを見て大笑いをする。


「人間ってさ、極限になると怖いんだよ。家族とか子どもを守るために、人を殺したりする。トム・クルーズだって、娘を守るために、人を殺しちゃうんだ。あっさりと。」

一番怖いシーンだった。
ナルは小さく呟いた。

「人を殺す時に、娘に耳を塞がせて、歌を歌わせるんだ。こうやってさ。」

ナルは両手のひらを自分の耳に当てて見せる。


「音を聞かさないために。その…叫び声とか、そういうの。」


ふぅん、と呟いた。
なるべくなんでもないことみたいに。
それでいて、冷たく聞こえないように、慎重に心を込めて、ふぅん、とただ一言。

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