僕は悪にでもなる
刑事の首が転げた。ボールのように。
何も感じない。感じない。

俺はそのまま刀を手に取り、静かに部屋に出た。

歌いながらまた歩く、何も見えない。何も聞こえない。
「きみーが笑ってくれるなら僕は悪にでもなるー」

繰り返し、繰り返し。ゆっくりと、ゆっくりと。

その頃、弁護士は直樹とおばちゃんの元へ向かい着いていた。
「私はあまりにも非道で償いようのないことをしました。」
深々と頭を下げる。

ビックリする二人。

「どうしたの?」

「ここでお二人に話、私は死にます。」

私達兄弟は親を幸一君の父親に殺されました。
復讐のため、大井に手を貸すことにしました。
東京出身である直樹君の保護観察官をして
直樹君を使って幸一君を東京に呼びました。

襲撃の黒幕が大井であることもも知っていました。
もちろん刑事である弟も。
すっと黙認していました。

大井は弟の出所祝いにすると暴行を受け続ける幸一君の動画を集めていました。
ついに大井は虹美さんにその悪の刃を向けたのです。
同時に幸一君の居場所をつきとめろという指示が入った時
私はその一報を受けた時ようやく目が覚めました。

弟はまだ復讐心が途絶えることなく大井と共に幸一君の殺害計画を進めようと
していたので私が、この手で。。。

「どこまで非道なの。どこまで悲しいの。彼らがこの子らが何をしたって言うのよ。」
おばちゃんは、崩れ落ちる。

直樹はじっと。じっと。こらえていたが、
「幸一はそれを知ってんのか」
爆発するように弁護士の胸倉をつかむ。

「わからない」

その時、おばちゃんの携帯が鳴った。
「弁護士」
そしてすぐに切れた。

「どういうことなの。あんたの携帯よ」
「えっ。」
弁護士は固まった。

「お前、携帯は今どこだ。」
「事務所においてきています。。。」

「幸一が、幸一が、」
そう血相を変えて弁護士を踏み倒し部屋を飛び出していった。

「こんなに悲しいことがあるの。ねえ。こんなに。
あの子たちはずっとずっと憎しみや悪と戦い、我慢して我慢して。
あんたらみたいな悪人がずっと彼らを追いこんできた。
最後に最後に。どうしてくれるのよ。ねえ。こたえなさい!こたえなさい!」

おばちゃんは何度も何度も弁護士をゆする。泣きながら。泣きながら。

泣きながらうつむき、声も出ない弁護士

「行くわよ。最後にこれだけは、これだけは、私が守る。」
そう言って弁護士を連れて部屋をでた。

事務所に向かって
走って走って走って。

足の悪い直樹は何度も転げては、人にぶつかり
それでも前へ必死で進む直樹の背が見えてくる。

弁護士はたまらず、直樹を抱え、事務所へ向かって走る。

息を切らし階段を上り扉の前へ。

扉をあけると、刑事の死体。
そんなの目に入らない。
机の上におかれた携帯。
飾られた日本刀がない壁。

「なんで。なんで。いつも、いつも。
あいつはずっとずっとこんなものに追われて追われて。
絶対にさせない。これだけはさせない。こんな悲しいことがあってたまるか。」
そう直樹が力づよく言い放った。

おばちゃんはすぐに電話をとり誰かに電話をかける。
「もしもし、私。」
何かを言ってかずみさんも部屋を飛び出した。

弁護士は身も心も崩れに崩れた。跡形もなく。
俺はかわらず歌いながらゆっくりと、ゆっくりと歩いている。
何も聞こえない、何も見えない。

無のままに、無のままに。

頭にあるのは携帯のメールに残っていた道しるべ
ちらちらと涙の雨が降ってくる。
次第に雨足が強くなる。

ゆっくりとゆっくりと歩き続ける。

「ようやく着く、やっと着く。
今行く、今行く、くそ野郎」

そう目的地に近付くにつれて目がおき心がおきて心臓がおきる。
脈が鼓動を生み、魂が帰る。
降り続く雨がいくら邪魔しようともはっきりとくっきりと、周りが見えてくる。

「今行く。今行く。くそ野郎。」
そして
「待ってろよ虹美」
そう言った。

見えた。あいつが見えた。鼓動は高まり続ける。
足並みが早くなる。どんどんと近づいていく。

俺は刀のさやをぬいた。

見える、見える。人面獣心が。
笑いながら、見送られながら、高級車の後部座先のドアが開くその前で立っている。

「やっとやっとだ。大井。終わりにしよう。お前を切り裂いて俺も虹美の元へ行く。
そしてここだけでなく、あの世でも何度も何度も永遠にお前をきり続けてやる。」

大井が俺に気付いた。
俺はにっこりと笑い返す。
見送っていた人があわてて大井の前で壁を作った瞬間

大井は口から血を吐いた。
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