掠れた声で囁いて




***



「相模……篤哉?」

「そう。それが俺の名前」


 名刺に書かれた名前を心の中で反芻する。
 相模さん。覚えた。


「君は?」


 私は、自分を指差す。勿論自分の名前ですか?という意味をこめて。


「そう。君の名前」

「飯嶋、絢菜です……」

「絢菜ちゃん?」


 心臓を撃ち抜かれた。
 相模さんの穏やかな微笑みに胸が苦しいほど動いてる。
 今なら死んでも悔いはない。

 なんて思ったからか電車が来るアナウンスが流れる。
 もう少し横でその声を聞いていたかった私としては、残念だった。


「それでは……」


 お仕事頑張ってください、と続けようとしたのだけれど私の背中を押して一緒に電車に乗り込む相模さんを、ついつい見つめてしまう。


「会社に行くのでは……?」

「さっき休みとった」

「なんで……」


 慌てて口を押さえる。
 驚きすぎていつもの口調になってしまった。


「一人で帰るの心細くないか?」


 それは……痴漢にあったことを心配してくれているのだろうか。


「……もう大丈夫なので」


 心配することはない。痴漢はすでに警察に連行された。



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