掠れた声で囁いて





 なので、そっと柔らかそうな産毛の生えた頭に手を伸ばす。そして驚かせないようにゆっくりゆっくり触れて撫でる。
 けーくんが気持ち良さげに目をつむるもんだから、調子に乗ってほっぺを軽くつつく。

 ダメだ、やみつきになるほど気持ちいい。

 一心不乱につついているとクスッと笑われる。一瞬で体が火照った。


「分かるよ、それ。俺もよくやるからさ」

「そ、そうなんですかっ」


 あ〜〜〜〜〜!!!!

 なんで吃っちゃう!?ここで!なんで!?!


 リーマンをこっそり窺うと苦笑いだ。

 ほんとにやだ。泣きたい。


 そんなことをやっているうちに、車内アナウンスで自分の高校の最寄り駅に着くことが放送される。


「じゅっ……じゃあ!私ここで降りるのでっ」


 今度は噛んだ。もう電車から飛び降りてしまいたい。
 恥ずかしくて、俯いたまま背を向ける。

 と、腰の辺りを突然の悪寒が襲った。油臭さにもうっと顔を顰める。反射的に顔を上げると、中年の男性がいた。その男性は何も気にしていないようだったので、たまたま腕が当たったか何かしたのだろう。
 過敏な反応をしてしまったことを更に恥ずかしく思いながら、電車を降りた。


 ドアの閉まった電車を見送りながら、明日にむけて決意を口にする。


「明日は絶対噛まない……!」


 その決意が無駄になったと分かるのは、僅か24時間後。



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