掠れた声で囁いて
いつもの駅で、いつものドアから子連れリーマンが乗ってこなかった時だった。
ドアが開いた時、顔を上げてそちらを見るがいつもの姿はない。あれ?と首を傾げて周りを見てもやっぱりいない。
……乗る時間でも変えたのだろうか?
当たり前の答えに行き着いて、にも関わらず酷く落胆している自分に乾ききった笑みを浮かべる。
何故自分は、今日もあの子連れリーマンに会えると思い込んでいたのだろう。少し考えれば分かることじゃないの?
だが、そんな可能性あること自体全く考えていなかった花畑全開の自分の脳みそに、馬鹿じゃんとつぶやく。
「ほんと馬鹿みたい」
鉄橋の上を走る電車の音に掻き消された言葉は、リーマンを見なくなって三日目のことだった。
誰に聞かせたいわけでもない。勝手にするりと口からでた。
自分自身に言い聞かせたかったのかもしれない。けれど、それすらも本当にそうなのか分からない。
窓の外を眺めようにも、大勢の頭に阻まれる。自分の後ろを眺めようにも、隣の人の邪魔になることはできない。
何故だかその空間が息苦しくて仕方なかった。
はあっと息を吐き出す。
前に立つ人の視線を感じたが、少しだけ体制を崩さなければやってられなかった。
本当に気持ち悪いかもしれない。
そう思うと余計に胃が重くなる。今日はいつも以上に人が多い。もしかしたら人混みに酔ったのかもしれない。