最後の恋の始め方
 僕は思わずネクタイを解く手を止めて、理恵を見た。


 帰るなりいきなり、喧嘩を売るような言葉をぶつけられた。


 理恵は何を怒っているのだろう。


 「……なんか棘のある言い方だね」


 理恵もさすがに言い過ぎたと感じたのか、後悔が表情によぎる。


 「僕がイチャイチャしていた? そんなつもりはないんだけどな……。ただカメラのより良い構え方を教えたりするから、どうしても体は相手に接近したりするんだよね」


 「一石二鳥じゃないですか」


 一旦自重するかに見えた理恵は、再び刺々しい言葉を吐く。


 「意味が分からないんだけど。さ、食事にしよう」


 僕は不機嫌な理恵をなだめるかのように、肩を抱きながら椅子を引いて座らせようとした。


 「早く座りなさい。オードブル、移動の途中に冷めちゃったから、電子レンジで暖めようか」


 「……どうしてですか」


 「ん? 電子レンジで暖めて、何か問題ある?」


 僕が大きなプレートに入れられたオードブルを小分けにして、電子レンジで暖めようとしているのを理恵が反対しているのだと最初は思った。
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