最後の恋の始め方
 「それはね……。理恵が危なっかしいからだよ」


 僕は静かに立ち上がり、テーブルを半周して後ろに回り込み。


 椅子の後からそっと理恵を抱きしめた。


 「やめてください。私が真面目に話している時に」


 「何をふてくされているのかなって思ったら、そんなことだったんだね」


 「和仁さん……」


 僕は知り尽くしている。


 理恵の心が乱れた時、落ち着かせるにはそっと抱きしめるのが一番の方法だということを。


 「僕は写真家。被写体には気持ちよく写ってもらいたいから、過度に優しい言葉を口にすることは多々ある」


 理恵を背中から抱きしめながら、説明を続ける。


 「被写体が人間、特に女の場合、よりよい作品に仕上げるためには、身も心もレンズの前にさらけ出してほしいって願う。それは一種の、擬似恋愛」


 「擬似恋愛、ですか」


 最高の結果、僕の場合には「写真」として残すためには、パートナーに深入りと思えるくらいにのめり込むようにしている。


 それはまるで恋愛のごとく。


 理恵の予想をはるかに越えるくらいに、被写体に夢中になっている。


 「理解しようと努めてみます」


 「ありがとう。理恵も今以上に写真にはまったら、きっといつか理解できる日が来るよ」


 理恵は最近僕の勧めで、写真を撮ってそれをブログにアップするなどして修業をしている。


 まだまだ素人に毛が生えた程度だけど、僕と一緒に写真を撮り公開する楽しみを味わえるようになってきた。
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