最後の恋の始め方
 「山室先輩にお会いしたのですね。預金の新規契約の件ですか」


 「そう」


 最近僕は、理恵の不在時を意図的に選んで、事務所にあの男を呼んでいる。


 「あいつ、自分が訪問する際どうしていつも理恵がいないのか、僕に尋ねてきたよ」


 「……何て答えたのですか」


 「お前が理恵に色目を使うからだ、って」


 「え……」


 理恵の顔色が真っ青になる。


 「冗談だよ。たまたまだとしか言ってないよ」


 「……悪い冗談はやめてください」


 「あとさり気なく、どうして佑典と理恵は別れたんでしょうねだとか、のみならず今後あの二人は和解できないんでしょうかって、僕に協力まで仰いできたよ」


 「そんなこと……」


 「何も言えないよね。理恵を佑典から強引に引き離したのは、他でもないこの僕なんだから」


 そっと重なった唇。


 「違います。最終的にその道を選んだのは……私です」


 確かに。


 あの夜、突然の後輩・内村の登場に混乱したのもあるものの。


 もはや佑典のそばにいられないと観念し、逃げ出したのは理恵のほうが先。
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