最後の恋の始め方
 「いえいえ。うちの佑典のほうこそ、お世話になりまして。この通り自宅が大学から距離があるものだから、山室さんのお宅を宿代わりに使わせていただいて」


 「とんでもありません。何度も車で送っていただいたり、大学の研究のほうでもお世話になっていますので」


 友人の父親と、息子の友人。


 男二人でしばらくの間、謙遜合戦を繰り返した後。


 「せっかくここまでいらしたのですから、上がってお茶でも」


 笑顔で和仁さんは、山室さんを招き入れた。


 「え、でも……」


 山室さんは恐縮した表情で私を見た。


 「預金のことでも、相談したいことがありますので。さあ」


 お仕事の話をちらつかせて、和仁さんは山室さんを客間に通した。


 「寺本。お茶の支度をしてくれるかな」


 「は、はい」


 この期に及んでは強引に追い返すわけにも行かず、山室さんと和仁さんにお茶を淹れた。
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