最後の恋の始め方
 「君は卒業後、銀行に就職したんだね。××銀なら道内最大手じゃないか。ちょうどいいことに、この事務所も僕個人も××の口座を持っている」


 次に山室さんの名刺を眺めながら、和仁さんは銀行の話を始めた。


 「先生……」


 「どうした?」


 「そろそろ出発なさらないと、打ち合わせに間に合わないのでは」


 邪魔をしているわけではなく、ただ単に和仁さんがこのままでは遅刻濃厚なので忠告した。


 「大丈夫。さっき先方にメールで、打ち合わせ開始時間を一時間遅らせてもらうよう、頼んであるから」


 いつのまに。


 そういえば先ほど、山室さんを客間に招き入れた直後、ほんの一瞬携帯電話でメールをカチカチ打っていたような気がする。


 その際に先方に時間変更を申し出たんだ。


 無理やり時間を変更してまで、山室さんと……。


 和仁さんは明らかに、山室さんのことを探っている。


 どういう人物で、仕事ぶりはどんなものか。


 息子の友人だから?


 いや……、私が仲の良い素振りを見せたから?


 「あの……。もし水無月先生の予定が詰まっているのでしたら、私のほうからまた出直しますが」


 山室さんもそう述べたものの、


 「いや。全く問題はないから、気にしないでくれ。ところで年明け早々に、満期になる定期預金があるんだけど」


 和仁さんは会社の通帳を持ち出して、満期後のお金の運用方法を山室さんに尋ねていた。


 「そうですね。利率がいいものは……」


 山室さんは持参したバッグから、銀行の定期預金プランや証券のチラシをあれこれ取り出して、和仁さんに説明していた。
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