最後の恋の始め方
 「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。何かありましたら私のほうにご連絡お願いします」


 和仁さんにこう伝えた後、山室さんは、


 「じゃ、理恵ちゃん。またメールするね」


 帰り際に言い残して、私たちの元を後にした。


 社用車と思われる軽乗用車が、家の前から走り去った。


 ……。


 「和仁さん、」


 「あ、そろそろ行かなくちゃ」


 状況を説明しようと思ったのだけど、和仁さんは時間が迫っていたので、慌しく出かけていった。


 山室さんが現れる前にすでにスーツに着替えていたので、荷物だけかき集めるように手にして。


 ネクタイは車の中で、赤信号の隙にでも締めるつもりらしい。


 無人になった事務所で、私は一人昼食。


 あらかじめ準備しておいたサンドイッチを、冷蔵庫から取り出した。


 卒業まではアルバイト扱いで、四月から正社員に昇格する予定。


 でも仕事の中味や生活は、さほど変わらない。


 時給制から月給制になるくらいで。
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