最後の恋の始め方
 そう言い放って和仁さんは、勢いよくネクタイを解いた。


 そしてまるで縄を手にするように、両手に引っ張る。


 捕らえられそうな恐怖を感じて、私は一歩後ずさった。


 「あの男も僕と何も変わらない。過程は違えど、やがて本性が現れる」


 「本性って、」


 「男はみんな、獲物の前では善人ぶる……獣」


 そう断言した時の和仁さんの表情は、とても冷淡に見えた。


 「もう結構です。手に入れるだとか本性が何だとか、そんな話ばっかり。私、ただ銀行のカレンダーをお願いしただけだったのに」


 突然悲しくなって、和仁さんに背を向けた。


 ダイニングルームのテーブルの上には、鍋の支度がそのままに。


 このまま楽しく鍋を囲む気分にはなれないので、とりあえず野菜などはラップをかけて冷蔵庫に片付けようとした。


 「……あ!」


 背を向けた一瞬後に、腕を掴まれた。


 そのまま引き寄せられ、背中越しに抱きしめられ、


 「ごめん」


 とだけ耳元で告げられた。
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