最後の恋の始め方
 最初から灯りなど点けられていない、暗い部屋。


 すでに暗闇に目は慣れている。


 そしてベッドの上で和仁さんが、憂いを帯びた表情を見せる。


 「……あの男と、銀行に関する要件や大学時代の思い出話をする程度で会うのは構わないけど。僕の留守中に事務所に連れ込むのだけはやめてほしい」


 「だから私、そんなつもりでは」


 「ただ嫉妬してるわけじゃない。周囲の人の目もあるし、違う部屋には高額の機材もたくさんある。僕がいない時に、何かトラブルがあってはまずい」


 和仁さんの留守中、一人で事務所で留守番している際。


 セールスマンなどが訪れてもインターホンで応対するのみにして、決してドアを開けないように言われている。


 事務所内には高額な機器の他、発表まで秘密にしておかなければならないような内容の仕事に関するものもあるし。


 盗難や紛失事件、情報漏洩などがあってはまずい。


 原因や犯人が異なっても、どうしても来客を疑わざるを得ない状況に陥るから。
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