最後の恋の始め方
 「ごめんごめん、急いで向かうから」


 「ゆっくりでいいです。慌てて事故っては元も子もありません。あと五分くらいなら、このままここで待っています」


 僕が大遅刻をしたと思い込んでいたのは理恵の誤解だと判明し、ほどなく信号が青に変わった。


 待ち合わせ場所の札幌駅までは、もうあとわずかだ。


 札幌駅北口の横断歩道で赤信号停止した隙に、理恵は助手席に乗り込んだ。


 「寒かったよね。待たせて悪かったね」


 「いえ、私も思い込んでしまって」


 「行くと来る。goとcomeは紛らわしいんだよね。英語になるとまた違うんだけど。お詫びに一番高いものご馳走するから」


 「いえ、ランチなので安いものでいいです」


 この日のランチは、中心部からちょっと離れた藻岩山(もいわやま)の中腹に位置する、洒落たレストラン。


 ランチセットなので割安価格なはずが、そこそこな値段。


 確かに味には定評があるものの……ディナーならば若者には厳しい金額かも。


 理恵単独ではまず不可能なので、いつか僕が連れてきてあげたいと思った。


 「今晩だけど。僕の家でいいんだよね」


 「はい」


 「お歳暮に出版社からいただいた、美味しいワインがあるんだ。理恵にも飲ませたいと思って」


 ランチを終えたら少しドライブして、僕の家に向かうことになっていた。
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