最後の恋の始め方
 廊下が広くなったり狭くなったりを続けた後、ようやく玄室(王の棺が安置されている部屋)に達した。


 玄室の真ん中には、クフ王のものと言われる石の棺が一つ。


 ただし中味は空っぽ。


 「盗まれたんでしょうか」


 「そういう説もあるし、元々ここは王の墓などではなく、宗教的な施設だったという説もある」


 「まだ謎が多いんですね」


 画像は玄室を後にして、来た道を引き返し始めた。


 やがて外に出て、灼熱の太陽に再び照らされるはずが……。


 「あれ?」


 エジプトの空の色がにび色なのを見て、理恵がこの日曇っていたことを察した。


 「曇っていたんですか」


 「いや、それどころか雨が降っていた」


 「雨?」


 「現地では、年に数回のことらしい」


 「和仁さんって、かなり雨男でしたよね」


 微笑みながら理恵は振り返って僕を見た。


 「僕もそうだけど、さらに強烈な雨女が」


 「雨女?」


 「女?」


 まずいことを口走ってしまい、僕は言葉を飲み込んだ。


 聞かないほうがいいと判断したのか、理恵はそれ以上追及してこなかった。
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