最後の恋の始め方
 「あんな写真、見たくなかった?」


 薄暗い部屋の中、理恵の顔を覗き込む。


 「私が想像していたより、ずっと……」


 「ずっと?」


 「……」


 ずっと綺麗だった?


 ずっと幸せそうな家庭だった?


 理恵は何を伝えたかったのだろう。


 「和仁さんに愛される女性は生涯私だけであってほしいだなんて、わがままな願いを持っていました……」


 「理恵」


 「そんなふうに思い上がっていた自分が、今となってはどこか滑稽に思えます……」


 そう伝え終えて、理恵は再び頬を枕に埋めた。


 「周りの勧めで結ばれた女性だけど、僕にはそれなりに大切な存在だった」


 僕から亡くなった妻に関して理恵に具体的に語ることは、今までほとんどなかった。


 避けていた話題だった。


 もうこの世にはいない人だけど、どうしても意識してしまうので。


 「激しい恋愛感情を抱いていたわけではないけれど、かけがえのない人だった」


 毎年、佑典の学校の冬休みか春休みに合わせて、家族で海外旅行に出かけたのだと理恵に伝えた。


 関東育ちの妻が、北海道の寒く長い冬が苦手で、それから逃れるために一家で海外へと飛んだのだと。


 自宅では冬の間塞ぎ込みがちだった妻が、海外の温暖な気候と開放的な雰囲気の中、明るさを取り戻してくれるのが嬉しかったと。
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