最後の恋の始め方
 「危険、ですか。先生が……?」


 真実を気取られぬよう、私はますます言葉を選ぶ。


 「俺は男同士だから、別にそばにいても何ともない。仕事の面では特に。向こうは社会的地位のある人だしね。だけど理恵ちゃんは別だ」


 「どうしてそんなふうに考えるのですか」


 「理恵ちゃんをあの人のそばに置いておくのは、かなり危険な気がするんだ」


 「そんな……」


 少し沈黙が走った。


 「とても彼氏の父親には見えない、若くて素敵な芸術家のそばに四六時中理恵ちゃんがいるって考えただけで、俺は悪い方に想像しちゃうな」


 「そんなこと言われても。私にとって先生はあくまで先生であって」


 「理恵ちゃんのお母さんは、事情を知って入社を認めたの?」


 ……冬の初め、連休中。


 来年からの就職の件で、母が和仁さんに挨拶したいと札幌まで出てきたことがある。


 電話では事前に和仁さんの正体を明かし、あくまで佑典のお父さんという縁を強調して。


 佑典とは事実上別れていることは伏せたままで。


 佑典のお父さんが写真家の水無月和仁だとは知らなかった母は、オフィスを訪れ挨拶の際、かなり緊張していた。
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