最後の恋の始め方
 「娘をよろしくお願いします」と、雇用主に対して念入りに挨拶を繰り返していた。


 ……そんなやり取りの合間に、母は何となく気づいてしまったらしい。


 私と和仁さんとの関係を。


 こちらの言動に落ち度があったわけではなく、女の直感みたいなものが働いたようだ。


 母はまずいとは感じたものの、真実を確かめるすべもなく、しばらくは黙って様子を見守ろうと決意したらしい。


 「これからは一社会人として、誠意と責任のある行動をしなさい」とだけ言い残して帰っていった。


 母に勘付かれたと察した時、叱られ叩かれてでも別れるように迫られるかと覚悟した。


 だけど何も訊かれないのがかえって恐怖だった。


 私は……。


 「母には心配をかけたくないから……。佑典とのこともまだ話してません。就職が見つからないとかえって迷惑をかけることになるので、うちで働かないかと声をかけてくださった水無月先生の厚意には、私は断る理由もなく……」


 「そっか。就職の問題もあるから、俺の感覚だけで辞めろとは言えないよね」


 山室さんはため息をついた。


 そして、


 「あ、もう時間も遅くなっちゃったね。理恵ちゃんと電話してるといつも長くなる。また今度、直接会って話そうか」
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