最後の恋の始め方
 「私はテレビや映画で、ラブシーンを目にするのが苦手なんです」


 「なぜ?」


 「自分がこういうことをしているのだと客観的に思い知らされるというか、肉欲的な醜さに打ちひしがれてしまうというか……」


 醜い?


 愛し合う男と女が本能のままに求め合う姿は、そんなに醜いもの?


 「目を背けるようなことではないよ。これは互いがどれくらい愛し合っているかを教え合う、愛情表現方法なんだから」


 「……」


 「理恵、こっち向いて」


 恥ずかしくて背けていた顔は、再び正面を向かせられて、そのままキスを受け入れた。


 触れているだけで、こちらもこの上ない充実感を得られる。


 体の結びつきがなくとも、ぬくもりだけで十分と感じられるくらいに。


 「もうすぐ年末だね」


 キスの合間に、髪を撫でながら理恵に語りかけた。


 「はい。その前にクリスマスがありますが」


 「年末は理恵は帰省するの」


 「一度は。でも……」


 理恵は正月前後の数日間、毎年実家に帰省している。


 今年は僕の予定を確かめてから、帰省の日程を確定させようとしているようだ。


 「こっちは雪が多いけど、理恵の故郷はどうなんだろうね」


 窓のカーテンの隙間から見える、雪に覆われた庭を眺めながら理恵に尋ねた。


 「向こうも多いみたいです。冬は寒く夏は猛暑ですから、最悪ですね」


 夏。


 猛暑。


 会話の中の何気ない言葉によって、僕はまた思い起こしてしまう。


 (佑典……)


 それは僕と理恵とが背負わされた、一生涯外すことができないであろう十字架。
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