最後の恋の始め方
 「心配なんだ。理恵の美味しい体を狙って、害虫が群がって来るのは明白だから」


 あの男は僕にとって、害虫のようなもの。


 楽しみに育てていた果実に害虫がついて台無しにされた時のがっかり感を味わうのは、御免蒙る。


 「害虫とはあんまりです。……ていうか、和仁さんにとって私って、体だけなんですか」


 「え?」


 「高望みしちゃいけないって分かっていても……。体だけだって思われるのは、やはり悲しいです」


 想定外のことを口走った理恵に僕は呆然とし、何も答えられなかった。


 僕が理恵を体だけ欲しているなどと、なぜそんなことを考えるのだろう。


 あまりにむなしくて悔しくなり、それを理恵にぶつけてしまうとますます体目当てだと誤解される。


 動揺を抑えるため、しばらくの間理恵の髪をそっと触れ続けた。


 「最初は体だけでいいって、自分で自分に言い聞かせていた。心までは望むまいと」


 「和仁さん……」


 「でももう無理。全部手に入れないと……我慢できない」


 そして再び唇を重ねた。


 この夜は静かな雪の夜。


 窓の外では静かに雪が降り続いていた。


 「ロードヒーティングのボタン、押してましたか」


 「もういい」


 ムードを妨げるようなことを口走る理恵の唇を強引に奪い、体を開く。


 ……この時ばかりは本音も建前もどうでもよくなってしまう。


 体目当てだと思われてもいい。


 ただ、欲しくてたまらない。
 

 もう離れたくなくなって、何もかも無視して強く抱き合い続けた。


 互いの温もりを求め合い、寒さなど忘れてしまうくらいに。
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