波音の回廊
 「清廉!」


 今度はちょっと大きめの声で、強く裾を引っ張った。


 「瑠璃……!」


 急に清廉は動いたかと思うと、がばっと両腕で私を抱いた。


 「私は……どうすればいい?」


 清廉は突然の事態に戸惑い、混乱し途方に暮れている。


 「清廉、あなたはどうするべきだと思うの?」


 私には答えが出せず、清廉に問い返した。


 「分からない……」


 力なく答え、私を抱き締める腕の力を強めただけだった。


 「あなたはあの二人の関係を、やめさせたいの? それとも言い触らして恥をかかせたいの? それとも大々的に告発して、罰を与えてやりたい?」


 「私は……!」


 「とりあえずお父上に報告して、相談してみたら?」


 「それはできない! 兄上の名を出さざるを得なくなったら……!」


 最高権力者の妻に手を出す不届き者は、死罪となる可能性もあるからだ。
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