波音の回廊
 「家庭内の話とはいえ、あなたたちの場合はこの島の権力者一家なのだから」


 「それは分かっている……」


 分かっているがゆえに、清廉は苦しんでいた。


 内々に清明を諌めたとしても、逆上して何をするか分からない。


 恋に狂った男は冷静な判断力を失い、どんな行動に出るか見当もつかない。


 一方あの七重がやすやすと、自分の非を認めるとも思えない。


 そして当主に知らせれば、事と次第によっては……。


 大変なことになりかねない。


 だから清廉は迷っていた。


 「……今晩一晩、考えてみる」


 しばらくして私から身を離し、そう告げた。


 「それがいいでしょうね。落ち着いて、無事に解決する手段を考えたほうが」


 「兄上が目を覚ましてさえくれたら……」


 そうつぶやいて、清廉は館に戻っていった。


 私は見守るしかできなかった。
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