砂の鎖
動揺して上手く言葉が返せずにいた私を現実に引き戻したのは、途端に周囲から沸き上がった黄色い声。

何があったのかと考えた瞬間状況を理解した。

耳元で小さく囁いた真人の唇が、私のこめかみに触れていたからだ。


「おい真人! 見せつけんなよ!」

「ラブラブじゃん!」

「羨ましいだろ!」


真人はなんてことないかの様に、囃し立てる陸上部員にいつもの笑顔を返して。
私は今更、恥ずかしさやらなにやらで、体温が上がってきた。


「真人! 何して……」

「亜澄。数学の課題やってるならあとで教えてよ。一問不安な所があるんだ」

「は!? 真人に私が教えることなんてないでしょ!」

「はは。じゃ、またあとで」

「ちょっと……っ」


すっかりペースに乗せられて言い返してしまい、朝練の最中の真人はまた校庭に戻っていった。
真人は他の陸上部員に囲まれてからかうように小突かれている。


(……何、考えてるの?)


思わず真人の唇が触れたこめかみを押さえた。
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