LOVE SICK
「若い頃に結婚をしてね、結婚しても……お互いに恋人気分だったんだな……仕事ばかりで家庭を一切顧みなかった俺も、寂しくて他の男に頼った彼女も……
家庭を築くっていう自覚がなかったんだ。そんな彼女を、俺だけが責められる訳がないだろ……」


自分を傷つけるかの様に、辛い筈の話を微笑んで穏やかに話す彼に泣きたくなった。
私自身のあさはかさに、泣きたくなった……


「何よりもショックだったのはね、彼女の浮気……いや、浮気では無いな……とにかく、他に好きな男がいるって分かった時、俺は何とも思わなかったんだ。
ああそうか。それだけ」


自分の中の愛が無くなっていた事に気が付いた時。
そうして大切な人を追い詰めていた事に気がついた時。

優しいこの人はどう思ったんだろう。

私には分からなくて、想像すら出来なくて。
だから、かけられる言葉が何一つ見つからなくて……

ただ黙っていた。


「彼女は俺と離婚してその人と再婚したいとまで言ったのに……
俺たちはもう、恋人でもなくて、それでも愛情も無かった。
そんな俺たちのが一緒にいるのは由奈の……娘の為にもならないと思った。だから話合って離婚したんだ。
でもそれも……結局は俺たちの勝手だな……」


彼は自分の娘への今も続く愛情と、妻だった人への失ってしまった愛情と、そして後ろめたさを抱えて生きている。
そこにあるのは夫婦の、男女の問題じゃない。

それ以上に大切な存在が二人の間にはあったんだ……


「元奥さんの今の旦那さんはいい人なんだ。
見た目は小太りでさ。全然パッとしないんだけど。懐が深いいい男だよ。
由奈はもう、彼と養子縁組をしているから実際彼の子供なんだけどね、今もこうして由奈に月に一度会わせてくれて、養育費も払わせてくれる」


“会わせてくれる” “払わせてくれる”
そんな言葉の端に淡々と語る彼の感情が僅かに見えて……

押しつぶされて、しまいそうだった……
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