LOVE SICK
「田嶋君。ちょっとちょっと……」

「何?」

「あのさ、顧客管理シートの新しいのってどこに入ってるんだっけ……」


机を並べて仕事をするようになってから、彼女は度々俺を小声で呼んだ。

眉間に皺を寄せているくせに少し眉尻は垂らした神妙な顔は完璧主義でもある彼女の隙であり、当初若干近寄りがたかった彼女のこういう部分に親近感を覚えるようになった。


「ああ。俺昨日使ったから覚えてるよ。このファイル開いて……」

「たまにしか使わないからつい忘れちゃうんだよね……メモするからちょっと待って」

「あ。メモったら俺にもコピーちょうだい。昨日すっごい手短に教えられたからメモる時間無くて……」

「もうちょっと資料の場所とかマニュアルあってもいいよね」

「だよなぁ」


体育会系の部署で、懇切丁寧に教えてもらえるなんて事は無かった。
それでも一度でも聞いたことを忘れてもう一度聞いてしまうとど叱られる。
聞いてない事でも相手の虫の居所が悪い時に聞いてしまえば怒られる。

川井さんより根性無しの俺と、そうは言っても女の子な川井さん。

二人ともできれば怒鳴られるのは避けたいし、社内で怒鳴り声を聞くのも好きじゃない。

そんな部分で共感した俺たちは二人で協力し合って仕事を覚えることにした。
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