重ねた嘘、募る思い
それは陽さんの幼少時代の話だった。
三歳の頃に母親を病気で亡くし、父親とふたりきりで暮らして来たと話す。
その父親も数年前に他界、親戚はいるもののほぼ交流はなく身内と呼べる人はいないと顔を伏せるようにして語ってくれた。
母親の味など知らず、わたしの弁当が人に作ってもらった初めてのものですごくうれしくて美味しかったと再び照れくさそうに話すものだから胸がきゅうっと締め付けられるようだった。
引く要素を微塵も感じられないその話を、なんであんなに恥ずかしそうに隠していたのかさっぱりわからない。むしろ悲しくて涙が零れ落ちそうなのに。
「のんちゃん、泣かないで。悲しくなるじゃん」
「だって……うぇっ」
気づいてなかったけどわたしはすでに泣いていたようだ。
あんな普通の弁当なのにそんなによろこんでくれていたなんて思わなかったから、うれしくて。そして陽さんがかわいそうで。
眼鏡をずらして手で涙を拭こうとすると、陽さんがまわりをキョロキョロ見渡している。そしてすっと取り出したのは自分の首に巻いてあるタオルだった。ありがたいけど丁重にお断りした。