愛してるの代わりに



乾杯も終わり頼んだメニューも何品か運ばれてきたころ、ふと思い立ったように咲良が声を上げた。

「ねぇねぇしつもーん! なんで雛子ちゃんのこと、未来ちゃんは『雛子』呼びなのに慎吾くんは『雛』呼びなの??」

「あ、それ俺も気になってた。慎吾がやけに俺が雛ちゃんって呼ぶの嫌がるんだよなあ」

不思議がって顔をのぞきこむ雛子に、慎吾は気まずそうに目を逸らす。

「宮脇がなんでそんなに嫌がるかは私もわからないですけど。でも学生時代の友人とかはみんな『雛子』呼びですよ。同級生に漢字は違うけど『ひな』って子がいたので区別するために省略せずに呼んでたって感じかな?」

「確かに私のこと『雛』って呼ぶのは家族と親戚と宮脇家の人くらいです」

「なるほど。ってことは慎吾は『雛』って雛子ちゃんを呼ぶことによって自分が特別な気分になってるんだな」

「……悪いですか?」

「いやぁ。慎吾も可愛いところあると思ってなあ」

「……」

どうやらこの先輩に、慎吾は頭が上がらないようだ。

そういえば高校を卒業するまでの間、同じマンションに住んで面倒を見てくれていたとも聞いている。

時々慎吾から「めんどくせーおっさん」と翔の話を聞くこともある雛子だが、その言葉には翔に対する愛情の裏返しなのかも知れないな、とじゃれあうふたりを見ながら雛子はふと思った。




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