愛してるの代わりに
檜のいい香りのする浴槽に体を沈めて、雛子は入浴しながらもう何度目かわからないため息をついた。
もちろん、恋人同士になった以上、こういう場面に遭遇することは予想もしていたし、少しばかり想像もしていた。
だが、今回の旅行に関しては慎吾とはご飯を食べるだけと聞いていたし、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったため、まだ頭がついていけていない自分がいる。
慎吾と結ばれることはとても嬉しいと思う反面、この歳にもなって初めてな自分に幻滅されないかという不安は、ずっと雛子の頭の中に渦巻いていることだった。
「はあ、どうしよう……」
再度ため息をつき、ブクブクブク、と鼻先まで顔を沈めていると、外から慎吾の心配そうな声が聞こえてきた。
その声色に、自分が結構な時間お風呂に入ってことに気付かされる。
「雛、おぼれたりとかしてないよな?」
「うん、大丈夫。もうすぐ上がるね」
急いで浴室から出て、バスタオルで体をふく。
身に着けようと下着を手に取ると、思い出されるのは部屋を出ていく直前の未来の言葉。
『大丈夫よ。宮脇なら絶対雛子を泣かすようなことはしない』
「そうだよね、慎くんのこと信じていればきっと大丈夫よね」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、雛子は着替えを急いだ。