愛してるの代わりに
たぬ郎の着ぐるみをつけた雛子がスタジオに到着すると、すでに撮影は始まっていた。
まずは慎吾ひとりのショットを撮っているようだ。
仕事モードの慎吾を見て、胸がキュン、となる。
「雛子ちゃん、顔が恋する乙女になってるわよ」
耳元で早見に囁かれ、思わず赤くなった顔を手で覆っていると、カメラマンから声を掛けられる。
早見にたぬ郎の頭を被せてもらい、トテトテと慎吾のいる場所へと歩いていると、そっと手が差し伸べられた。
少しだけ見える外の風景の中で、雛子をエスコートする慎吾の横顔が見える。
「立ち位置ここでいいですか~?」
カメラマンが頷くと同時に、慎吾にギュッ、と抱きつかれた。
遠くから聞こえてくるのはシャッター音。
時々スタッフたちの声も混じって聞こえてくるが、たぬ郎の中の雛子にはそれを聞く余裕はない。
「来るんならちゃんと言ってくれないと」
雛子にしか聞こえない小さな声で、慎吾が囁く。
「ごめん、って気持ちがあるなら、雛から俺に抱きついてきて」
周りに顔が見えない状態でよかった。
間違いなく自分の顔は真っ赤になっている。
「雛はたぬ郎演じてるんだから、可愛く抱きついてきてよ」
言われるがまま、キュ、っと慎吾の腰に手を回す。
少し右足も上げたポーズを撮ってみると、カメラマンから「たぬ郎がチャーミングでいいですねえ」なんて声がかかる。
「今はこれで我慢するけど、撮影終わったら覚悟してろよ」
拗ねた恋人の機嫌を直すのは、中々に大変な作業になりそうだ。
着ぐるみの中で盛大に肩を落とすと、
「たぬ郎さん、もっと元気よく!」
カメラマンの言葉に雛子は元気にジャンプした。