愛してるの代わりに
「……疲れた……」
着替えに用意された部屋で、雛子は盛大にため息をつく。
さすがプロ、と言うべき慎吾のリードで無事に撮影は終わった。
慎吾は「お疲れ様でした」と早々にスタジオを後にし、雛子はその背中を見送ることしかできなかった。
「少しくらい話したかったなあ」
着替えを済ませた後、しょんぼりとした気持ちで部屋を出る。
来る前は「会えるだけでも」と思っていた気持ちが、実際会えてしまうと「話したい」と気持ちがどんどん贅沢になっていく。
「贅沢は敵、贅沢は敵」
言い聞かせるように唱えていると、廊下で雛子を待っていた中塚の姿が見えた。
「お待たせしました」
「お疲れ様。崎坂さん、結構度胸座ってるなあ。堂々と撮影できてたよ」
スッ、と雛子が手にしていたたぬ郎を持つあたり、スマートな先輩だなあとつくづく思う。
「いやいや、たぬ郎の中では結構緊張してたんですよぉ。自分の姿では絶対カメラの前には立てません」
照れくさそうに俯く雛子の姿に小さく笑いながら、中塚が雛子の目線まで腰を屈めてきた。
「頑張った崎坂さんに、僕からのクリスマスプレゼント。向こうに連絡して直帰の許しを得ました~」
「え!?」
「もうここからは崎坂さんの自由にしていいから、クリスマス、楽しんでおいで。僕の思い違いでなければ、彼なんでしょ?」
初恋の人、と屈んでいた姿勢をすっと伸ばし、雛子の後ろへと目線を送る。
中塚の目線を追うと、そこにいたのは慎吾。
少しだけ機嫌の悪そうな顔で、壁に背中をついて立っている。