愛してるの代わりに
ゆっくりと慎吾の抱きしめる力が緩み、お互いの顔を見合わせる。
引きあうように目を閉じ、顔を近づけあった瞬間……
「会いたかったよ、雛子ちゃんっ!!」
勢いよく入ってきたひとりの男性。
年齢は自分の父親よりも少し上くらいだろうか。
品のいいスーツを身にまとった初老の男性は、入ってくるなり雛子の前に跪き、両手をぶんぶんと握りしめる。
その横で慎吾は頭を抱え、男性と一緒に部屋に入ってきた早見は呆れ顔。
「空気読めよ、ジジイっ……!!!」
「ひっどいなあ。自分とこの社長に向かって」
ねぇ、と男性は雛子に向かって微笑む。
「しゃ、社長!?」
慎吾を見つめると、嫌々そうな顔をしながら首を縦に振る。
「初めまして、雛子ちゃん。社長の黒川です」
「は、初めまして。崎坂雛子です……」
「おいジジイ、いい加減雛の手ぇ離せよ」
「はいはい、わかりましたよ。独占欲強いなあ、慎吾は」
やれやれ、という表情をしながら黒川は雛子から離れ、対面のソファへと腰を下ろした。
「慎くん、社長さんのことジジイとか呼んでるけど、大丈夫なの?」
「いいんだよ。ったく、社長も翔さんもマジめんどくせーおっさんだぜ」
慎吾の悪態にも黒川はニコニコとした表情を浮かべたままだ。
「うちのタレントは僕にとって子どもみたいな存在だから。慎吾に罵声浴びせられたところで息子への愛情は変わらないよ」
「いっつも余裕綽綽で腹立つ」
「あははは」
豪快に笑った黒川の目が、真剣な眼差しへと変化した。
空気が変わったのを感じ、自然と慎吾と雛子もソファに座りなおす。