婚約者の憂鬱




「ぎゃーッ!」

「うわッ、うわーッ!」

「お母ちゃーんッ!」


 今までの余裕は一気に消えて、盗賊たちは天井を見上げたままたたらを踏む。



「この野郎ッ!」

「待たんか!」

 無事だった盗賊たちが、アレックスを追いかける。
 一方の茶髪の騎士は、高らかに笑って華麗にかわし続けた。

「あははははッ!」

 声高に笑い、優雅なステップを披露する。

 アレックスのダンスは社交界でも一、二を争う。
 ただし、両腕を縛られた今の状態では、笑いを誘う奇妙な踊りにしか見えなかった。


 その間にも、落とし穴やら鉄球やら網やら、様々な罠が盗賊たちを襲う。


「踊るなーッ!」

「罠を踏むなーッ!」


 盗賊たちは叫びながら、網の中でもがく。
 アレックスを追いかける者は、もう数名しかいない。



 そんな様子を遠巻きに見ていたジェラルドは脱力した。



「んな、アホな……」

「あそこまでくると立派な才能ですよね」

 眠たげな表情のカインが、しみじみと呟く。




「さて、と」

「!?」

 おもむろに立ち上がったカインに、ジェラルドが仰天する。
 彼が動いた拍子に、後ろ手に縛られた縄がするりとほどけたのだ。

「おまえ、何を……」

「我がツウィード家に伝わる縄抜けの秘術です」

「嘘つけ。初耳だぞ」



 と、いうか何故もっと早くにそうしないのか。


 ジェラルドが呆れ果てて絶句していると、複数の足音が近づいてくる。




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