孤独女と王子様
『良美の夫で桧山徹(ヒヤマトオル)です』
「健吾の弟で成瀬川剛です」

年齢は世間では定年に近い。
しかし、そこに老いぼれた雰囲気はなく、白髪は目立つものの、気立てのいいジェントルマンだ。

桧山先生の案内で診察室に入り、椅子に座るように促された。

「あの・・・ゆい・・・いえ、妻は」
『点滴で落ち着かれて、今は眠っているよ』
「ありがとうございます」

僕は座ったままで一礼した。

『奥さんは・・・妊娠しているね』
「はい、恐らく」
『明日、朝一番でここの産婦人科に診てもらいなさい。私は専門ではないので詳しい周期や出産時期を算出できない』

桧山先生の専門は確か脳外科。
救命救急センターは本来は専門の先生がいるが、軽度の救急については他の科の先生達が交代で当直に入って診察をしており、月に一回の順番で回ってくるその役割が、たまたま今日は桧山先生だった。
< 390 / 439 >

この作品をシェア

pagetop