孤独女と王子様
『その彼女と結婚できないことを分かっていながら、そしてその子供に会うことすら叶わない環境になることも覚悟して、彼女は子供を産んだのです』

さらにざわつく。

『親のエゴだとは分かっています。でもやっぱりどうしても子供に会いたくて、彼女にさえも内緒で一度だけ小学校の運動会に忍び込んだことだってあります。私の結婚生活は、とても家族とは言えない形だけのものだった中で、たとえ会えなくても子供の存在が、私の乾いた日常の支えでした。それは今も変わりません』

お父さんは会場を見渡し、再び静かになった会場となったところで、続きを話す。

『鍬形の名の名声、地位、財産・・・全てに憧れる人もおられるでしょう。しかし私はそれよりも、月並みな温かい家族を得ることが、最大の夢だった。3年前にそれまでの妻が亡くなり、昨年、父も亡くなりました。人から縁もいただいて、今年の春、あの時の子供に会えたのです。そして、あの時の彼女と、私は再婚することにしました』
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